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男は血まみれになって座り込んでいる。壁に体を預け、うずくまる。
その前に女が立つ。距離は女の歩幅で五歩。汚れるから近づかなければいいと男は思う。女の足元の床は血で汚れている。女は構わず血だまりを踏みつける。その程度じゃ穢れないほどの美しさを女は持っているのだ。
「なんのようだ」
男は呻く様に問う。言下に立ち去れと拒絶の意思を滲ませながら。
「また殺したね」
女はさらさらと言う。雪解け水のような、或いは濾過されて滲みでた地下水の湧き出たばかりの清らかさ。男はそれが正しくは上澄み液だと知っている。汚れや穢れは沈殿物として凝っているだけだ。彼女の底に溜まった汚濁を掻き乱してやりたいという衝動に駆られる。
まるで抱き寄せるかのように肩にかけていた刀を握り直す。
「わたしを殺すの?」
女は首を傾ける。無邪気さを装っているだけか、それにしてはまっすぐに放たれた疑問に男はたじろぐ。
「殺してくれればいい。あんたに斬られるなら悪くない」
そう嘯いた女を男はひき倒した。
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