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女がさめざめと泣くのでわたしはうんざりしてしまった。表情に出さないようこころがけた。女はうつむいているのでわたしの顔を見ていない。それをよいことに少し溜息をついた。長い吐息だ。心身を落ち着かせるための呼吸の調整。女の息は乱れている。さて、何と声をかけるべきか。
「泣かないでください」
女の肩が跳ねた。女はぎこちない動作で顔を上げた。油のさしてないブリキ人形。関節の軋む音が聞こえるような気がした。スローモーな動きで女はわたしに手を伸ばした。意味がわからなかった。問いかけで顔がゆがむ。女はわたしの肩に手を置いた。その表情はうつろだ。瞳に光が宿っていない。涙に溶けて流れてしまったのか、この女の虹彩は。
目を合わせているのに耐えられなくなって、わたしは視線を女から逃がす。自然とうつむいてしまう。屈辱だ。自分の足元を見る。履きつぶした運動靴が濡れている。不快感はない。不思議と。
女が何かを云ったが、聞き取れなかった。
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