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さあっと雨が降り出した。野外にいた男は濡れるのにかまわず歩を進めた。
すぐにやむ通り雨だと判断したのだが、男の意に反して雨は緩急なくふり続けた。雨脚は弱い。
男はやがて木の幹にもたれる女を見つけた。木陰の下とはいえ、彼女も雨にさらされ濡れている。
湿り気を帯びた黒髪の下で、険しい眼が男をとらえた。顎を上げ、男と対面する。
「待ったか」
「待たない」
簡潔なやりとり。男は女に背を向けて、もと来た道を返した。女は何も言わずそのあとをついていった。
濡れた枯葉を踏む。辺りの木は落葉を迎え、寒々しい枝を晒している。男と女は林のなかを、心持早足で分け入ってゆく。
女が小さくくしゃみをした。
「寒いか」
男は前を向いたまま淡々ときいた。
「寒ィ」
女は答え、それきり黙った。二人は静かに歩を進めた。
やがて粗末な小屋にたどりつく。
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